美しい音楽がいつでもどこでも楽しめる、という技術の開発によって、世界の人々に喜びを与えてくださった盛田昭夫氏が亡くなられて、もう一年が過ぎました。我々音楽家にとっても、おかげでどんなに音楽が身近に楽しめるようになったことでしょうか。御遺族の方々から御依頼を受けて、新しいスタイルのカンタータを書かせていただくことになりました。
この曲は、
「なぜ、地球が丸いか知っている?
別れた人同士がまたどこかで出会えるように
神様が地球を丸くしたからだよ。」
という島田雅彦氏の詞一節が表しているように、亡くなられた盛田氏の思い出を忘れず、世界中の人々が自由に力強く生きていくための、元気がでるようなカンタータにしたつもりです。
演奏は、日本国内のオーケストラから、コンサートマスターや首席奏者を中心に編成された「名手たちの交響楽団」ジャパン・ヴィルトゥオーゾ・シンフォニー・オーケストラ。指揮は大友直人氏。合唱指揮は関屋晋氏。そして晋友会合唱団のコーラスによって、この曲を皆さまにお届けしたいと思っています。
三枝成彰(作曲家)
先端技術の分野とそれを普及させるビジネスの分野で目覚しい功績を残された故盛田昭夫氏は、音楽と物理学に自由と無限を見出してこられた人でもありました。故人の偉業をたたえる言葉を尽くすより、人々を元気にする音楽を発信することを望まれたご遺族の意を受け、私は詩を通じて、自由と無限に思いを巡らせようと思いました。
私は小説を書くことを生業にしていますが、オペラのリブレット執筆や歌曲の作詞を通じて、三枝成彰氏とコラボレーションを重ねてきました。そして、今回はカンタータという形式に寄り添いつつ、詩をハーモニーに溶かし込むようにして、一つの祈りの形式を提出しようと試みました。
人はおのがうちに理性への欲求を抱えています。理性の欲求が未来への原動力になることを私は信じています。
島田雅彦(作家)
ものを創ること、生み出すことの苦労と喜びを、盛田昭夫氏とその御家族は、最もよく御存知であったと思います。そのことに社会的使命感を、持っておられたに違いありません。
音楽を愛して止まなかった盛田昭夫氏の一周年メモリアルを、御家族の皆様は、新曲の委嘱初演を含むコンサートという形でなさいます。
生前、盛田昭夫氏がお好きであったというワーグナーの作品と、佐藤しのぶさんをお迎えしてのイタリアオペラのアリア、そして、島田雅彦氏作詞、三枝成彰氏作曲の新作カンタータを演奏させていただくこととなりました。
盛田家の皆様の「創造」に対する深い理解と勇気、そして、友人と社会に対する温かい心遣いを、少しでもお伝え出来ますよう、心を込めて演奏いたしたいと思います。
大友直人(初演指揮者)