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変革への勇気「『日本型経営』が危ない」(1992年)
〜ヨーロッパ企業との共存共栄〜
「それでもわれわれは困るのだ」と彼が盛んにいうものですから、「それでは私にひとつ提案があります。ヨーロッパのエレクトロニクス・メーカーのトップと日本のエレクトロニクス・メーカーのトップとで毎年会合を開きましょう。しかし、いまの製品をいくらにするとか、いまのマーケットを分け合うという話ではなく、10年先にどういう技術が重要かという話し合いをしようではありませんか。お互いに10年先の共通の見通しのもとに、各々が自力で開発努力をすれば、その成果についてはお互い文句はいえないでしょう」ということをいいました。
しかし、メーカー同士が集まると独禁法上問題があるので、両方の政府にも立ち会ってもらうことにしたわけです。こうして、ダビニオンEC副委員長と亡くなられました安倍晋太郎さん(当時・通産大臣)との会談で「民生用電子機器に関する日・ECビジネス・ラウンドテーブル」という会議がスタートいたしました。
私が日本側の議長をやりまして、ヨーロッパ側はフィリップス社長のデッカー氏がやりました。その後毎年集まり、昨年10月第8回が日本で行われました。将来にわたるいろいろなディスカッションをしております。次回はヨーロッパでやることとなっております。
第1回のとき、日本側が10年先にこういうものを考えているというような話をしたら、その会合の後に先方から、「民生用電子機器のラウンドテーブルというけれども、あなたたちのいっていることは民生用技術ではなく、産業用技術である」という話が出てきました。
われわれがそのとき彼らにいったのは、「あなた方はそんなことをいっているからダメなのです。いま産業用技術と思われるものも、日本の家電メーカーは真剣に勉強し、研究しています。なぜなら10年先にはその技術も民生用製品に使われるからだ」という話をしました。
このように、ヨーロッパなどとお互いの理解は進んでも、われわれ日本メーカーの頭のなかには、先程も述べたような割り切れない思いは根強く残っているわけです。
しかし私は、このたび経団連の訪欧でビジネスマンと意見交換し、さらにドロール委員長をはじめとするECのリーダーの方々と話をするなかで、こうした疑問を解くきっかけを見つけることができたような気がしてきました。
ドロール委員長ほか、各国首脳、ビジネスマンの話を聞いていると、自動車、エレクトロニクス等、日本が強い競争力を持つ産業に対してヨーロッパの人々がいかに強い脅威の念を抱き、また日本企業に対してヨーロッパ企業との共存共栄をどれほど強く求めているか、ということが痛いほど伝わってきました。こうした声に十分配慮していくことが、いまの日本企業にとって最大のチャレンジだと思うわけですが、では具体的にどうしたらよいのか、私なりに考えた結果を述べたいと思います。
(Vol.6 に続く)
WAC「21世紀へ」より抜粋