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変革への勇気「『日本型経営』が危ない」(1992年)
〜欧米との整合性のある競争ルール〜
われわれ日本企業のやり方に対する欧米企業の我慢が限界に近づいてきていることに加え、今日では、限られた資源・エネルギーの利用の問題、環境汚染の問題が人類共通の問題として浮上しています。世界がいま、力を合わせて真剣にこれらの問題に取り組まなければ取り返しのつかないことになる可能性があるのです。
このことからも、欧米から見れば異質な経営理念をもって世界市場で競争を続けることは、もはや許されないところまできているといえるのです。
もちろん、モノづくりを経済の根幹に据え、よりよいモノをつくり続けるため、エンジニアを中心として製造業にかかわるあらゆる人たちが研究と努力を続けてきた日本の企業風土それ自体には、数々の誇るべき点があるのです。しかしながらわれわれ企業人は、これまでに経営のうえで十分考慮してこなかった面がないかどうか、いま一度われわれの企業理念を真剣に考えるべきときなのです。
そこでわれわれ企業人は、まず最初のステップとして、次のようなことを考えていくべきではないでしょうか。
現在の世界を見てみますと、先程あげた資源問題以外にも困難な状況が山積しています。東欧そして旧ソビエト連邦地域の政治・経済・社会的混乱をいかに収束させていくのか、また大きく広がった南北間の経済格差をどのように縮めていくかも難問として残されています。さらに、厳しさの増す先進諸国の経済環境をどのように改善していくかも大きな課題です。
日本は世界経済のボーダレス化の流れのなかに深く組み込まれており、こうした世界規模の課題は、すべて日本の将来に大きなインパクトを持つものであります。
ですから、問題の解決にどのように取り組んでいくかを考えていくと、やはり欧米に日本を加えた三極が、人的にも資金的にも一致協力してリーダーシップをとらなければならないことは明らかであります。
そのような世界的にクリティカルなときに、その三極の大事な一角である日本という国が、欧米から不信の目でみられているような状況はなんとしても変えていかなければなりません。そのための大事な一歩として、日本企業が欧米と整合性のあるルールの上でフェアな競争をしていくことがなんとしても重要なのです。
これまで日本企業は競争に勝ち抜くことに意を注ぎ、効率ばかりを追求するあまりに、企業活動に際して前述のような諸側面を十分配慮してこなかったのではないでしょうか。今後、効率の犠牲となってきたこうした諸点を企業は十分考慮し、適性なマージンを付加しつつ価格を決定していかなければいけません。そしてそのうえで競争力を維持していくことを心がけなければならないのです。
このことが、欧米と整合性を持った競争ルールの確立を通じて欧米の対日不信感を払拭し、グローバルな課題解決のための日米欧の緊密な協力関係を築き、ひいては豊かな日本の創造にも結びついてくることを、われわれはしっかりと認識すべきです。
しかし、小さな改革でさえ、いざ実行となると企業の側で二の足を踏まざるをえないというのが実情ではないでしょうか。われわれは厳しい市場環境のもとで引き続きビジネスを行っていかなければならないのですから、われわれ企業人が実際に意識を変えていくということは大変に難しいのです。(Vol. 9に続く)
WAC「21世紀へ」より抜粋