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『「No」と言える日本』について(1989年)
〜常にアメリカペースの日米構造協議〜
そこで当面の日米構造協議ということになります。アメリカの主張は、リザルト・オリエンテッド、すなわち結果主義。日本はいろいろな言い訳をしているけれども、結局日米の輸出入のインバランスはなくならないではないか、えらそうなことをいっても、結果が見えなくては問題外だということですね。
アメリカは自由の国ですから、自分たちの買っているものを減らそうとしない。貿易をこれ以上管理しようという考え方も、本質的に嫌いなんです。そうすると結局、インバランスを是正するには、日本が輸入を増やしてくれなくてはいけない。日本の輸入が増えないのは、システムが悪いんだ、日本の社会構造、経済構造が悪いんだ、したがって「構造協議」の名目のもとに、日本の構造にいろいろと注文をつけて、日本の政府の対応を望む---というのがアメリカの立場です。
この構造協議について私が思うのは、いままでの日米交渉の経緯を見ると、いつもアメリカのペースでことが運ばれてきた。アメリカが半導体といえば半導体、シェアだといえばシェアが争点になる。そして今度は構造協議ということになったでしょう。日本はどうもアメリカ側のペースに巻き込まれて、その場その場で対応しようとしているのではないか、そんな印象を持っているんです。
もちろん、日本の構造に問題がないわけではありません。最初に申し上げたとおり、私はいうべきときは、日本に対してもたえず「ノー」をいい続けています。そのことをふまえたうえで、アメリカに対しても、日本の立場を主張すべきだと思う。
交渉なんですから、一方的に相手のペースにばかり乗っていてはいけない。あくまでも対等な立場で話を進めていこう。今回の構造協議で、アメリカが日本の構造を問題にするのなら、日本もまた、アメリカの構造を問題にしていくことが、交渉に臨むうえでのフェアな態度だと考えるわけです。
まず貿易のインバランスですが、すべて貿易というのは自由経済下におけるビジネスのトランザクション、取引の結果です。売り手はお客に買いものを強制することはできない。アメリカの対日輸入が多いという場合、日本の商品に買いたいものがたくさんあるということだろうし、対日輸出が少ないという場合、日本にとって本当に買いたいものがあまりないということであろう。
このことを基本に据えて、改めて日本の立場から考え直すならば、アメリカが日本から輸入している、その内容を明らかにすべきだと思うんです。目下は数字だけが問題になっている。数字だけをあげて、アメリカは日米間のインバランスが改善されていないという。しかし、改善しているものと、改悪になっているものがあるんですね。
改善されているものは、たとえば私たちがつくっている民生品。1983年から1988年の間に、米国の家電機器の輸入は53パーセント減少している。テレビ・ラジオの減少率は5年間に45パーセントだし、ビデオデッキの減少率は31パーセントです。繊維製品のような非耐久消費財の輸入も59パーセントの減少です(円ベース比率)。
このように、アメリカにおける耐久消費財、非耐久消費財の日本からの輸入はほぼ減少傾向にある。それなのに、依然として貿易インバランスが解消されないのはなぜなのか?
それは、アメリカの産業が必要としている半導体とか、コンピューターに使う記憶装置や、ディスプレイ、総じて資本財の輸入が増加する一方にあるからなんです。1983年から88年の5年間に、一般機械の輸入は全体で82パーセント、電気機器は49パーセントの増加です。
具体的に例を引けば、コンピューターは83パーセント、ICは58パーセント、通信機器は36パーセント、それぞれ輸入が増えている。アメリカの産業は、こうした資本財を自らのハイテク製品の部品として、あるいは自社製品を製造するための機械として輸入しているんですね。
ボーイング767ジェット機だって、いまや椅子は全部日本製、内部に備えつけたステレオもビデオも日本製、胴体の一部も日本製。管制航法の加速度センサーという重要な部分も日本から輸入している。去年の暮れにスティーブ・ジョブズという人が発表した、有名なコンピューター「ネクスト」の光メモリーも日本製です。(Vol. 15に続く)
WAC「21世紀へ」より抜粋