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「盛田昭夫」語録 こころの教科書

フィロソフィー

15

『「No」と言える日本』について(1989年)
〜インバランスではない日米の基礎収支〜

資本財と消費材とは基本的に違います。資本財の場合、価格よりも品質が重視される。アメリカの製造会社は、よかれ悪しかれ、必要な部品や機器を供給し、自社の特別な注文に応じ、かつまたきちんと納期を守ることができるのは、日本の企業しかないことを承知している。そこで日本から資本財を輸入する。したがって、トータルではアメリカの輸入は減らないと、こういうことになっているんです。

日本で、自動車が自由化になってから、ドイツのBMWやベンツなどは、一生懸命販売努力をして売上がぐっと増えています。イギリスの車もやはり売れている。ところがアメリカの自動車は増えていないでしょう。むしろホンダの車のように、日本のメーカーがアメリカの工場でつくった車を逆輸入しているんであって、アメリカの三大自動車メーカーの輸出総台数はたいして増えていない。

それなのに、アメリカの自動車メーカーは、日本のいすゞや三菱などから、自社ブランドで売るために30万台ぐらい自動車を買っているわけです。自分は日本に売る気がなく、おまけに日本の自動車を大量に買っているのだから、それだけでもすごいインバランスとなるのは明らかです。

もしアメリカが、本気でインバランスを直したいと考えるならば、アメリカのメーカー自身が、日本のものを買うことを減らさなければならない。私は機会あるごとにアメリカの政府関係者にいっているんです。日本は懸命に努力している、しかしアメリカのメーカーにも努力してもらわなきゃ困るんだ、あなたがた政府はアメリカのメーカーに対して、日本の産業に頼らず自分たちのものは自分たちでつくれ、といったらどうですかと。

ところがアメリカ政府は、それは自由経済の本質にもとるからいえないという。そういいながら、日米交渉では、日本における外国製の半導体のシェアを20パーセントにしろといっている。あるいは日本のメーカーに、アメリカの半導体を買え買えといっている。われわれ日本企業に命令しておいて、アメリカの企業に命令できないのはどういうことですか、と私はいいたいんです。

ですから、この際、日米が共同して、アメリカは毎年どういうものを買っているか、日本はどういうものを買っているかを、詳細に分析したらいいのではないか。先ほど少しふれたように、5年前と比べて、アメリカ人大衆が日本から買っているものは減っている。アメリカの産業が買っているものは増えている。その国の産業が他国の産業に頼っている以上、いくら相手の構造が悪いと主張しても、なかなかインバランスは解消しません。

日本の構造を指摘すると同時に、アメリカの産業構造についても認識していただきたい。日米構造協議は、それでこそ実りあるものになる、というのが私の意見です。

もう一つ、日米の経済関係を眺めてみると、貿易収支はなるほどアメリカの赤字になっている。しかし、貿易外収支を考慮に入れた日米間の基礎収支は、決してインバランスじゃないんですね。

たとえば、私どもはCBS・ソニーというレコード会社をやっていますが、マイケル・ジャクソンをはじめ、アメリカの歌手の歌がすごくヒットしている。あれにはみんなロイヤリティを払っているんですからね。アメリカ映画に対しても同様だし、旅行者だって日本からアメリカに行く人の方が多い。目に見えないお金はずいぶんたくさんアメリカに流れている。

そのほか、日本はいわゆる投資で膨大なお金をつぎ込んでいますし、日本の基礎収支は去年マイナスになっているんです。いまや世界経済はモノだけが動いているのではない。目には見えないソフトウェアに支払われるお金を勘定に入れず、ハードウェアだけを問題にするのはおかしい。

とくにアメリカは、サービス産業、いわゆる“第三の波”が発達していて、ソフトウェア面ではかなり出超でしょう。それなのにハードウェア、つまりモノが国境を越えることだけを標的にして、インバランスだ、何とかしろといっているのが日米間の現状なのです。(Vol. 16に続く)

WAC「21世紀へ」より抜粋

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