日本人は古来から、“沈黙は金”という言葉に代表されるように、はっきりとモノを言わない傾向がある。その理由には、日本が基本的に単一民族国家であり、言語も共通であるため、はっきりとモノを言わなくても、なんとなくわかってしまうということがある。たとえば、ある人の意見に反対の場合、言葉で反対と言わなくても、表情や言い方などで反対を伝えることができる、と思っているところがある。しかし、多民族国家であるアメリカでは、それは通用しない。はっきりと言葉で意思表示をしなければ、伝わらない。反対であっても、言わない限り、賛成と思われても仕方ないのだ。早い時期にアメリカ生活を経験した盛田は、身をもってそのことを理解していた。はっきりと言うべきときには、言わなくてはいけないということを。
日本が経済成長を続け、日米間で貿易摩擦が起きたとき、アメリカ側はさかんに日本側に責任がある、日本がアンフェアであると批判していた。このとき、日本側では堂々と反論しようとする姿勢が見られなかった。しかし、盛田はただ黙っているだけでは危険であると、自ら、あちこちで自説を主張し続けたのである。アメリカ側も意見を言う相手の話はちゃんと聞くのである。
「友だちと意見が違ってはいけない、というのが日本の昔からの伝統なんです。こういう狭い社会に住んでいると、友だちと議論しちゃいけない、友だちと意見が違うときは「ああ、そうですか」と胸に収めて、沈黙するのが金なんです。ところがアメリカはそうじゃない。黙っていれば、この人は全部同意したと思うわけ。だから、今、私はアメリカで一所懸命にスピークアウトしなければ、意見がわかってもらえない。ところが、日本人たちは、そういう習慣がわかってないから、今まで日本はアメリカに向かって、日本の政治家や役人が「あんた、アンフェアです」と言ったことがないわけですよ。いつも黙っているから、日本はこれもアンフェア、あれもアンフェアと言われるんです」(『エスクァイア』昭和62年夏号)
アメリカに対して言うべきことはちゃんと言う。アメリカに対して、アメリカにも問題はありますよ、と言うために書いたのが『MADE IN JAPAN』なのである。ここでは、率直にアメリカに対する思い、注文を書いてある。この本は最初、英語版としてアメリカで出版され、ベストセラーになっている。
「ソニー・マガジンズ 盛田昭夫語録より」