かつて、盛田は理想とする社員像を語った文章に、真っ先に “欲” と “好奇心” のない人間はダメだと書いている。利益を追求する会社という存在自体が欲のかたまりなのだから、その一員である社員も欲がなくてはいけないというのである。欲は会社が発展するための目標となり、モチベーションとなるのである。ソニーが一流企業に発展したのも、ソニーの人間に欲が強かったからなのだ。「座ってボタモチを待っていてもダメなので、自力を発揮してボタモチを取りに行く “欲” がないような人間に、用はないということだ」(『宝石』1966年4月号)
金銭欲や物欲も欲である。誰でも、少しでも楽をしたい、少しでも楽しい暮らしをしたいと思う。人々のこうした欲求に応えるのが、企業の使命のひとつであり、それを否定的に捉える必要はない。加えて、ソニーの技術者たちには、より高い技術、より高い品質のものを追求したいという欲があった。その結果、ソニーは他にない創造的で高品質の商品を作り続けたのであり、そのことで高い評価を得たのである。
欲と好奇心を持ち、それを達成した人間は、自信を持つようになる。自信を持った人間は、さらに高い目標を持つようになる。この繰り返しが、進歩を生むのである。つまり、自信のない人間は用なしなのだ。競争社会を生きる企業の一員であるからには、目標を高く持っていなくてはいけないし、自信がなくてはいけない、というのが盛田の意見だ。「口うるさいほどに言いたいのは、会社とは “欲” とふたり連れの儲けるための団体である。この “儲け” の精神を忘れた時、すべてのサラリーマンは、失格者として進歩から見放されるであろう」(『宝石』1966年4月号)
欲と好奇心の塊と言えば、井深と盛田がその代表である。彼らは、もっと良いものを、もっと高い品質のものを求め、それを次々と実現していった。トランジスタ・ラジオ、テープコーダー、VTR、ウォークマン……、すべての製品が、井深と盛田の欲と好奇心の結果なのである。
「ソニー・マガジンズ 盛田昭夫語録より」