競争に勝つためには、常にアイデアを出し続けていかなくてはならない。しかし、いくらよいアイデアであっても、すでに誰かが考えだしたものであれば、意味はない。たとえ、1日でも1時間でも誰かが先に発表してしまえば、そのアイデアは自分のものとは言えないのだ。競争にはスピードがつきものなのだ。特に、日々進歩している科学技術分野では、スピードが勝負となる。
どんな画期的なアイデアであっても、時間がたてば、いつしかごく当たり前の存在になってしまう。あるいは、ソニーが開発しなくても、いつかは誰かが同じようなものを作り出すものである。つまり、ソニーの成功は、画期的なアイデアに加えて、他社に先駆けたというスピードがあったのだ。しかし、時代が移るとともに、この「知恵」と「スピード」の2点が忘れられているのではないかという危惧が盛田にはあった。
「今まで、『知恵』を発揮し、『スピード』を上げて他社に先駆けていいものを作りだすこと。それを合い言葉に頑張って来たが、はたしてすべての分野で実行されているのだろうか。『知恵』があり余っていろいろな意見が出過ぎ、当たり前の部分がなおざりになる。その結果、『スピード』が落ちているというようなことはないだろうか」(『ソニーファミリー』(1993年11月号)
それでは、「知恵」と「スピード」を生かすためにはどうしたらよいのだろうか。盛田は、まず頭を柔軟にすることが大切だと言う。基本は守ったうえで、古いしきたりを排除したフレキシブルな発想が重要だというのである。さらに、スピードという面では、常に未来を考えなくてはダメだとも強調する。「われわれを取り巻く状況は刻一刻と変わっている。今までやってきたことも、今やっていることもすべて正しいと思わないでほしい。時代、時代に求められる発想をすることが大切で、そのためには常に10年先のことを考えて仕事をする必要がある。未来に向けて、何が大切で何が必要なものかを考えていかなければならないのである」(『ソニーファミリー』1993年5月号)
競争に勝ち続けるためには、常に未来を考えたうえで、「知恵」と「スピード」を生かす努力を怠らない。これも盛田らしい考え方である。
「ソニー・マガジンズ 盛田昭夫語録より」