盛田のモットーは、“失敗を恐れるな”である、失敗を恐れて、積極的にチャレンジする精神がなければ、何事も前に進まないからだ。社員にも常々「自分の正しいと思うことはどんどんやりなさい。たとえ失敗しても、必ずそこから何かを学べるはずだ。ただし、同じ過ちは二度と繰り返さないように」と、言っている。
ある時期、盛田は朝令暮改という言葉をよく口にしていたことがある。「朝令暮改というのは一種の進歩なんだ。もし、いつまでもものを変えなかったら、今でも世の中は神武天皇のときのとおりになっている」。間違ったと思うことは、たとえ朝令暮改でもどんどん直すべきというのが盛田の持論だ。その後ソニーでは、朝礼朝会も珍しくなかった。
この盛田の精神の現れなのか、ソニーでは部署の名称や内容、組織体系までもが頻繁に変わる。一般的な企業からは考えられないほどの身軽な変身ぶりだ。
小澤敏雄(現ソニー・ミュージックエンタテインメント会長)は、ソニーの総務部に在籍していたころの話をこう語る。「総務部にいたころのことです。仕事に余裕があったので、組織図があれば便利だろう…と頼まれもしないのに自主的にソニーの組織図を作ったんですよ。やっと出来上がって上司に提出した。そうしたら上司を通じて盛田さんからひどく怒られましてね、こんなものをなぜ作った。誰が今どこで何をしているかなんてものは、次の瞬間に変わる。こんな組織図なんてなんの意味も持たない、朝令暮改がわが社のモットーだと言うんですよ。私は当時、きっちりとした規則や組織で物事が動いていた旧財閥系の会社から転職してきたばかりで、この一件で、ソニーという会社の企業風土を身にしみて学びました」
盛田の秘書やスタッフによると、盛田の海外出張に同行する際に、当初立てたスケジュールはあまり意味を持たない、と言う。「その場その場の状況でベストな方法を選びますからね。帰りの便が別々にとってあっても、飛行機の中で一緒に仕事ができるからと、時間を変更して同じ便で帰ってくることもあれば、逆に同じ便をとってあるのに『どこどこへ寄れば、あの仕事も片づけて帰れるじゃないか』と、突然もう1カ国立ち寄ってから帰ろうと言い出されたりする。いつ、どうやって帰る予定だったか、ということはなんの意味も持たないんですね」
「ソニー・マガジンズ 盛田昭夫語録より」