日本語で、あるいは英語で盛田のスピーチを聞いたことのある人間は多い。盛田の説得力のある論理的な話し方にも定評がある。
「社長として、盛田さんから学んだことは非常にたくさんあるのですが、特に英語のスピーチに関しては勉強させてもらいました。まず、ほとんど原稿は見ない。人を口説くときに原稿を見ないのと同じで、原稿を見ながら説得力のあるスピーチができるはずがない、というのが盛田さんの持論です。そして、事前にきちっと練習をする。秘書や周りの人間に聞いてもらって、言いたいことがちゃんと相手に伝えることができるかを確認して本番に臨むのです」(出井伸之 現ソニー社長)
会長の大賀典雄も盛田に口説かれてソニーに入っている。芸大卒業後も「たまに来るだけでいいから」と言われ、バリトン歌手への道を歩みつつ、ソニーにも顔を出していたころのことだ。「29歳のときです。盛田さんとイギリスのサザンプトン港からニューヨークへ船で5日間かけて大西洋を渡る旅をしたことがありました。そのときに言われたんです。『ビジネスというのは、わかるのに10年かかる。今日、決断すれば君は30代のうちにビジネスがわかるようになるんだ』と。それで、あぁそうか、と思ったんですよね。なるほど、と。結局説得されたっていうことなんですけど(笑)」
盛田のスピーチは、分析すると3段論法になっているという。感情や自分の主張を訴えるのではなく、事実を提示し説明することにより、相手が自ら結論へと到達するように導く。誰が聞いてもわかるような明解な言葉で、そして焦点をしっかりと絞る。
「スピーチとは違うのですが、昔、トランジスタラジオの在庫を山ほど抱えたことがありました。それを引き取ってもらおう、という電話を盛田さんがかけていたのですが、『在庫を引き取れ』とはひと言も言わないんです。『こういうラジオがここにある。在庫だが、こういう使い方のできるこういう商品なんだ』ということを説明する。すると、相手から『それでは売ってみます』と言ってくるんですよ」とソニーの元営業部員は語っている。
「ソニー・マガジンズ 盛田昭夫語録より」