盛田を表現するときに、多くの人が“気配りの人”と言う。
実際、大企業のトップという立場にありながら、盛田は常に周囲の人間に気を配っていた。そのいくつかのエピソードを紹介しよう。
「テレビの『総理を語る』という番組に出たとき、ライトが盛田さんに当たっていたんですね。そうしたら、『この番組は、総理を語る番組だから、ライトは総理に当てなくてはいけない』って、プロデューサーにアドバイスしたのです。普通、そういうことは気がつかないと、プロデューサーも驚いていましたよ」(若尾正昭 元ソニー取締役)
また、若尾によると、ソニーがVTRを発売する1年ほど前に、盛田はアメリカの映画会社に対して事前に、映画がビデオに録画される可能性があるということを説明している。
「ビデオが出れば、映画会社にも影響が出ますよ。発表を1年待ちますから、対策を考えてください、と言ったのですね。細かいところに気がつくのと同時に、非常にフェアな考え方をなさるのです」
「シンガポールにいたとき、駐在員全員へのおみやげとして大量の最中を運んでこられたことがあります。誰かがインスタントラーメンを食べたいと言うのを小耳にはさみ、すぐに送ってくれたこともあります。会長からそういうことをしてもらったので、みんなすごく感激しましたね。盛田さんという方は、どうしたら人が喜ぶのかをいつも考えておられる。それも嫌味ではなく、自然に出来る方なんです」(高野晋 現ソニー通商渉外担当)
盛田が気配りの人であることを証明する人は多いのだが、出井伸之(現ソニー社長)はそれを身近にみてきたひとりである。出井はあるとき、盛田から自分がサラリーマンならお前より優秀だよと言われ、納得したことがあるという。
「自分はサラリーマンでも十分勤まると言われるんですよ。確かに、あの方なら優秀なサラリーマンになったと思う。外人が入った食事のときの席の順番をどのように決めたらよいのか、盛田さんから教えていただいた。あの細やかな心遣いがあれば、サラリーマンだろうと、どんな職業をやられても優秀だったと思いますね」 豊富なエピソードがそれを証明しているのである。
「ソニー・マガジンズ 盛田昭夫語録より」