商売をしていくうえで、もっとも大事なことは信用である。特に自由主義経済においては、信用こそ商売の基本であると盛田は考える。信用は、簡単に得られるものではなく、1日1日、1年1年の積み重ねにより、得られるものだ。国内はもとより、海外での商売においては長期間の信用の積み重ねがいちばん大事なことなのである。ただ儲かればいいというのでは、信用を得ることは難しい。しかし、信用されるようになれば、自然と儲かるようになるのだ。
「無理に売上げを伸ばすことだけに専念するな。今年たくさん売るより、来年、再来年、その次といつまでも確実にセールスしていくために、本当にしっかりした信用を確立するほうが大事であるというポリシーを今まで保ってきたことが、ソニーというものが世界中の方々に信用されるようになった基であると思います」(『マスセールス』1969年7月号)
信用は目に見えるものではなく、大事にしなくても当座は影響を感じないものだ。しかし、その影響はじわじわと現れ、気がついたときにはもう手遅れということになる。
盛田が海外においても自らの販売網を決意したのも、信用を積み重ねるためだ。アメリカ国内でソニーというブランドを浸透させるためには、エンドユーザーである消費者の信用を得るほかはないと考え、ソニーアメリカを設立し、自ら社長に就任する。
信用を得るためには、製品を優秀なものにするだけではなく、徹底したアフターサービス網を完備することが大切だと考えたのである。しかし、広大なアメリカでゼロから自前の販売網、サービス網を作るのは並大抵なことではできない。盛田は、この仕事をじっくりと、粘り強く行う。最初の数年は、売上げ的には実績と言えるほどのものは出なかったが、アメリカの人々の間に、ソニーの信用を植えつけたのである。こうした努力によって、今日ソニーは世界的な企業となり、絶大なる信用を得ることになったのだ。
「ソニー・マガジンズ 盛田昭夫語録より」