日本は輸出により経済大国の地位を獲得していた。戦後、日本は国中を挙げて輸出できるものを作り上げ、海外で売る努力をしてきた。それに従い、品質も向上し、現在では日本製品は高品質で、信頼性が高いと世界中から評価されている。ソニー製品をはじめ、今日、日本製のモノが売られていない国は皆無といってよいほどである。つまり、世界経済、あるいは世界の人々の生活にとって、日本製品はなくてなはならない存在となっているのだ。特にハイテク産業の部分では、日本はトップクラスであり、コンピュータ用のICやメモリー、ディスプレイは日本製を使わざるを得ないのである。
しかし、だからと言って“日本あっての世界”というように勘違いしてはいけない。どんな状況になっても、輸出に頼るしかない日本は、“世界あっての日本”ということを忘れてはいけないというのが、盛田の意見である。
「日本企業は、今まで以上に世界中の人々を顧客(カスタマー)として、売り続けていかなくてはなりません。顧客を怒らせたり、その不興を買うようでは、商売は続けられません。日本にはどこまでも自由で開かれた世界市場が不可欠です。日本にとっては、一貫して、“日本あっての世界”ではなく、“世界あっての日本”なのです」
そして、盛田は世界の国の中で、アンチジャパンというような雰囲気が芽生えていることに懸念を表明する。しかも、その雰囲気は感情的なレベルでのものもあり、それが広がらないためにも、日本は努力をしなくてはいけない、というのである。
モノを売り続けることでしかやっていけない日本には、それを買ってくれる人たちが必要なことは、誰が考えても明らかなことである。しかし、日本の地位が向上したことで、そのあまりにも当たり前のことが忘れられてしまっている、という傾向はある。
お客である世界の人々にそっぽを向かれたら、日本はやっていけないことを長年の経験で知っている盛田の意見だけに、日本人は重く受け止めなくてはいけないのではないだろうか。
「ソニー・マガジンズ 盛田昭夫語録より」