盛田はその著書『学歴無用論』の中で、“会社は遊園地ではない”という章を設け、会社における楽しさ“とうことについて、詳しく論じている。ここで盛田はまず、一般的によく言われる“楽しい職場”という言葉に疑義を呈する。遊びの“楽しさ”と、仕事の“楽しさ”とが混同されては困るというのである。
「会社は楽しいところではない、根本的なところを間違わないでもらいたい。会社というのは働きに来るところだ。働いてお金をもうけて、それで楽しく会社外で暮らしてもらいたいのである。遊園地みたいなところである必要はない」(『学歴無用論』)
ところが、このことを誤解している人が社員にも経営者にも多いように見えると盛田は言う。厚生施設を充実させることは必要なことではあるが、それが過度に進むと本来の会社の目的と違ってきてしまう。会社は儲けるために働く場所であり、楽しみは休日にやればいいのである。しかし、日本の場合、会社側も社員側も常に一体化し、平日も休日もなく、仕事も遊びもみんなで仲良くすることを良しとする。社内にはレクリエーション施設があり、海や山には会社所有の保養施設がある。社員はいつも会社の施設を利用し、会社の同僚と遊ぶ。もともと会社側には、厚生施設を完備し、レクリエーション施設を用意することで、社員の会社への忠誠心を育てるのに利用していたという側面がある。しかし、過度になると、それが会社の負担になりかねないのだ。アメリカから日本の企業を見ると、「仕事はほんのつけたしで、実は大人の遊園地にほかならなような感じがしてくるのである」とまで、盛田は言い切る。
こうした傾向は、外国では見られない。特にアメリカでは、会社での仕事と楽しむことを厳然と区別し、会社では徹底的に仕事をし、会社の外や家庭では楽しむことに一所懸命である。盛田に言わせれば、それが当然なのだ。社員が娯楽的な楽しみを会社に求め、会社が過度に社員に楽しみを提供するのは、会社本来のあるべき姿とは違うというのが、盛田の主張だ。
「ソニー・マガジンズ 盛田昭夫語録より」