適材適所ということが、よく言われる。この適材適所とは日本の社会においては、人事、つまり会社側が社員の適性に合った場所に配置するという意味合いが強い。しかし、盛田は、適材適所とは社員自らが、自分の適性に合った場所を望むのが、本来の姿であると提言する。 「適材適所というのは、アメリカの場合は自分で選んでいる。使う人の側が、この人はよくできるから、こっちへ回してやろうということを考える必要がない。本人のほうから悪かったら出ていく。アメリカでは適材適所を選ぶことは自分の責任だと思っている。
日本の適材適所は、まるでマネジメントの責任のように言われることが多いが、私はとんでもない間違いだと思う。適材適所というのは、要するにひとりひとりが責任を持って考えるべきことである」(『産業新潮』1969年7月号)
もし、現在の職場が自分に向いてないと思うのなら、積極的に自分を売り込んで、自分に合った場所に移ることが、適材適所だということである。これを実現させるためには、会社側が社員の希望を聞けるような制度を取り入れることが必要であることを盛田は強調する。
それを実現させているのが、ソニーの社内募集制度だ。この制度は各セクションで人が必要となったとき、全社的に募集をかけ、人材を集めることができる制度だ。2年以上同じ職場に在籍していれば誰でも応募する権利があり、しかも秘密は厳守される。もし、不合格でも誰にも知られることはない。また、仕事の成果を毎年2回自己申告して、今後のキャリアプランを上司と相談し、本人の希望を伝えるという自己申告制度もある。この制度は、社員が自分の適性に合うと思う職務を申告し、それが認められれば希望するその仕事をしている職場に異動することができる、というものである。これらの制度でたとえば、エンジニアからマーケティングなどまったく違う分野への異動も可能になる。
「社内募集制度も自己申告制度も本人の希望が尊重され、また社内募集の場合は上司に知られずに面接を受けられます。採用の場合、それまでの職場の上司には引き止める権利はありません。毎年200人程の社員がこれらの制度により異動しています」(桐原保法 現ソニー人事部長)
こうした制度は「適材適所というのは自分で決めるものだ」という盛田の考えに基づいている。そして、それが実現可能であることを、ソニーという会社自ら証明しているのである。
「ソニー・マガジンズ 盛田昭夫語録より」