盛田は、否定的なモノの見方をする人が嫌いであり、「否定面にとらわれる人間に限って、失敗の理由を一所懸命数え上げる」と指摘する。失敗してしまったものは、理由を挙げても意味はない。
善後策を急いだほうがよいのにもかかわらず、ネガティブな人は失敗の理由にこだわるというのである。ある営業担当者は「昔、アジア、中近東のセールスを担当していたとき、ある法律違反をしてしまったことがあるのですね。それを盛田さんに報告しに行ったら、盛田さんはひと言も怒らず『私はどこへ謝りに行けばいいの?』と言うだけなんです。1カ所謝りに行くと『次はどこ?』。事務的と言えば事務的ですが、あまりにあっさりしていたので、こちらが逆にとまどってしまったぐらいです」と語っている。
否定的な人というのは過去にこだわり、暗く、自信がないように見える。反対に肯定的な人というのは、進歩的であり、明るく、自信に満ちている。これでは、どちらが良いか一目瞭然である。しかし、いかなるときでも前向きに、進歩的に、というのはたやすいことではない。
技術開発においては、わずかな肯定的側面を追求することが必要なのであり、ネガティブな人間は生きていけない。盛田は否定的なモノの言い方も嫌う。
ソニーでは、会長と意見が違えば反対することができるが、そのときも『それは違います』という否定的な言い方では意見は通らない。『それよりも、こうしたほうがよいと思います』という言い方をしなくてはいけない。前向きに意見を言えば必ず聞いてくれるのだという。
それでは盛田がよしとする人物はどのようなタイプか。ただ、肯定的・積極的な人物ではない。肯定的・積極的なうえに、細心な配慮と繊細な神経が行き届いてないといけないのである。ソニーのトップマネジメントを見ていくと、皆、このタイプである。現会長の大賀典雄にしても副会長の橋本綱夫、そして社長の出井伸之にしても、明るく自信に満ちている。
そして、肯定的・積極的にして細心の配慮と繊細な神経を持つ人物こそ盛田昭夫そのものである。
「ソニー・マガジンズ 盛田昭夫語録より」