盛田は、徹底的な自由主義経済論者であり、自由主義経済の基本は競争にあると考えている。公正なルールに則った競争によって、自由主義経済は成立する。であるならば、企業経営者は、安易に政府に助けを求めてはいけないのである。政府の力により、競争を回避しようとする者は、自由主義経済の根本を否定する者であるとも盛田は言うのである。
「われわれは、日本の政府関係者に、法律や規則による政府干渉を取り除き、健全な競争を拡大育成するように、ことあるごとに提言してきた。競争こそが自由主義経済のダイナミズムを保つカギである。われわれ経営の任にあたる者も、吹き荒れる競争の嵐をかわすために、政府の助けがほしいと仮に思ったとしても、その誘惑に負けてはならない」(『MADE IN JAPAN』)
企業や業界の中には、自ら政府に保護を求めるところも少なくない。しかし、そういう態度は、自らの首を絞めることになり、決して自由主義経済のためにはよくないのである。
盛田は、政府に保護を求めることを否定するだけでなく、政府による圧力も否定する。
田中角栄政権時代、アメリカから貿易黒字に対して日本批判が起こったとき、政府の無策を非難する声が多かった。このときも、盛田は企業は政府を非難する前に、やるべきことがある、と次のような主張をした。
「政府がノソノソしていても、会社それぞれは、少しでも正しいと思ったことを実行することである。(略)他人や政府のことを批判するよりも、政府を元気づけ、自分でできることは、政府にかかわりなく実行する」
この盛田の考えどおり、ソニーは創立以来、政治的にも経済的にも自由でニュートラルな立場を維持し続けているのである。
「ソニー・マガジンズ 盛田昭夫語録より」