ソニーにも3ヶ月の試庸期間があるが、盛田はこの期間を新入社員に対してこう説明する。「試庸期間とは、会社があなた方をもう一度試験する期間だと思っている人がたくさんいる。私はそうは思っていません。その期間は、自分の青春を託せる職場、会社であるかと、あなた方がソニーを試験する期間なのだと思います。もし、“ここは自分の思った会社と違うな”と思ったら、あなた方自身のために、早く転職をし、早くいいところを探すことを私は勧めます。一度しかない青春を不満な場所で過ごしたら、あなた方自身のためになりません。

終身雇用制が根づいている日本で、新入社員の入社式に転職を勧めるような内容を含む挨拶をする経営陣はそう多くないであろう。新入社員の誰もが最初は驚き、とまどうと言う。

井深とともに、身をもって自分の青春を託して、会社を成長させてきた盛田は、全力を注いで働くことの大切さ、そして喜びを誰よりも知っている。続けて盛田はこう言う「よくサラリーマンの人たちが、お酒を飲んでしゃべっているのを聞くと、私のボスは自分のことをわかってくれない、自分の会社はつまらん会社だと会社の悪口を言っているのを聞きます。なぜ、一度しかない人生を、悪口を言わなければならないようなところで過ごすんだろうかと思って、私は理解に苦しむのであります。ほかに自分を生かす道はいくらでもあるはずです」

サラリーマンには、なんとも耳の痛い話ではないだろうか。 会社が自分に合っているかよく考える。そして一度「ここでがんばる」と決めたのであれば、とにかく1日も早く会社の戦力となるよう努力する。それも「やりがいをもって」「前向きに」。盛田が新入社員に対して投げかける入社式での挨拶は、とても当たり前で、そしてそれ以上に難しいことなのである。

「ソニー・マガジンズ　盛田昭夫語録より」