現在では、国民の意識も変化を見せ、政府や自治体が税金の使い方に強い関心を持っているが、少し前までは、口で言うほどの関心は持っていなかった。しかし、盛田は税金の使い方に関してはかなり前から意見を持っていた。盛田は、それをタックスペイヤーという言葉を使って1969年に説明している。
「今アメリカでは、タックスペイヤーという言葉が盛んに使われるわけです。要するに、タックスペイヤーというのは、それだけの権利があるということです。日本ではどうもタックスペイヤーという考え方がなくて、本当にショバ代という感じ。場所を管理している親分が来て、バッと威張って取っていく」(『実業の日本』1969年11月号)
1968年に企業の重役の社宅の家賃が著しく安い場合は、その差を現物給与として所得とみなされ課税されることが決まった。それに関して盛田は税金の取り方がおかしいと憤慨したことがある。
「税務署は弱い奴、とりやすい所から税金を取るけれども、一番悪い奴は、平気でどこかに潜っている。現に私の知っている重役さんで、重税に困り、社宅を出た人がいる。(略)高級官吏はでっかい家に住んでいても税金は取られない。日本がここまで復興してきたのは、この20年間、産業が日本を復興させてきたからですよ」(『財界』1968年10月号)
もちろん、盛田は税金を納めることを否定しているわけではない。国民として、企業として税金を納めるのは義務であり、使命でもあると考えているのである。しかし、納める側も受け取る側も、税金は納めた後はどうなっているか関心が少ないことに疑問を持ち、税金を納めていることにもっと関心を持つべきだと主張しているのである。企業において株主は自らの出資金の使い道について、経営者に責任を要求することができ、経営者はそれに応える義務がある。盛田は税金を納めている国民は、日本国株式会社の株主みたいなものなのだから、もっと税金の使い道に関心を持てと主張したのである。
「ソニー・マガジンズ 盛田昭夫語録より」